頑張る人の物語

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第13回 『 プロストの試練

 プロストのもとで修行ができる。中野は期待をしていた。他の関係者からも羨ましがられた。しかし、その期待はすぐに裏切られた。

 プロストはレーシングドライバーとして確かに一流だった。それはもちろんドライビングテクニックだけでなく、精神面、チームとのコミュニケーション全てを含めての事だ。特にプロストにあったものはハングリー精神だった。

  そして、これは世界トップレベルのレーシングドライバーが皆共通して持っているものだった。勝つためなら何でもやる。いい意味でも悪い意味でもこれが徹底されていた。

 プロストのチームはメカニックなど全てフランス人だった。フランス人であった彼は何よりもフランス色の濃いチームを作ることに固執した。はるか東方の日本から一人やって来た中野にとっては決して戦いやすい環境とは言いがたかった。ミーティングは殆どがフランス語で行われた。

  もちろん皆、英語が話せない訳ではない。中野が意味を把握していないことを確認しつつ、フランス語で大事な話を進めていくこともあった。また、最初中野に付いていた優秀なエンジニアもこのエンジニアが優れている事が解ると、いつの間にかチームメートのエンジニアに取って代わっていた。
  
仲間であるチームもここでは敵に回ってしまっている。周りの人に言っても、そんなことは信じてくれなかった。日本にいた時から中野を知る人は皆が中野の大抜擢を褒め称えたが、当の中野にとっては、本当に苦しい時期だったのも確かだった。
  
  ギリギリの状況になり、父親にも相談をしようかとは思った。しかし、中野はそれを自ら否定した。父親には迷惑をかけたくない。この段階で既に中野はレーシングドライバーとしては父を超えていた。恐らく、父も中野を誇りに思っていただろう。

  まさか息子がF1の選手に選ばれるなんて思わなかっただろうし、ましてやあのプロストのチームにドライバーとして参戦しているとは思ってもいなかっただろう。そんな父に今の状態を伝えることは父の夢をも傷つけることだった。自分で変えていくしかない。中野はそう決意した。

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